2010年9月4日土曜日

偽医療ホメオパシーと科学的な医療

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非科学的なオカルトに、ホメオパシーと呼ばれる偽医療がある。毒物を入れた水を、ただの水になるまで希釈した後、砂糖粒に染み込ませたものだ。治療効果が無いのは明らかだが、特に害も無いので放置されて来た。ところが、現代医療を拒み、ホメオパシーに傾斜する人々が出てきたため、社会問題になっている。

例えば山口県でビタミンKを与え無かったために乳児死亡したと、母親が助産師を提訴する事件が知られている(読売新聞)。

しかし、報道されている批判のポイントが、BLOGなどを含めて、やや不明瞭に感じる。つまり、ホメオパシーは治験を行っていないので、非科学的な偽医療なのだが、この点があまり指摘されていない。

1. 前例の無い批判

口火を切ったのは朝日新聞記者の長野剛氏の記事で、ライバル誌の地方面で「すごい仕事で尊敬している。」とまで言われている(毎日新聞)。

日本学術会議の金澤一郎東大名誉教授が、ホメオパシーに厳しい非難声明(以下、金澤批判)を出したあと、日本医師会、日本医学会、日本獣医師会、日本獣医学会、日本薬理学会、日本助産師会が続けて金澤名誉教授の声明を支持した。

2. 金澤批判は「科学の無視」の説明が不十分

しかし、科学的な根拠とは何かの説明がされていない点で、金澤批判は不十分だ。医療関係者などの専門家へ向けたメッセージとしては十分だが、ホメオパシーを信じている人が理解できる内容ではない。

ホメオパシーのようなオカルトを信じる人は、何が科学的な根拠かを知らないので、古い歴史や個人的体験談も科学的な根拠に感じてしまうし、不備のある論文の何が不備かも分からないし、「水の記憶」がなぜ荒唐無稽であるかも分からない。信奉者はホメオパシーを科学的であると信じていると考えられる。

3. 科学的な根拠とは、統計学的な根拠

ホメオパシーが科学的に否定されるのは、その効果が統計的に検証できていないからだ。しかも何度も検証を試みて、全て検証に失敗している。

薬の場合は、薬効に個体差などの確率的誤差が出る。また、それが偽薬だとしても気の持ちようで症状が改善するプラセボ効果などのバイアスが出る事も知られている。ゆえに、統計学を手法として用いて確率的誤差とバイアスを考慮に入れた上でも薬効が確認されるか確認している。統計学的な根拠が無いと言う事は、誰かが自分には有効であったと主張しても、大多数には無効であると言う事が分かっていると言う事だ。

4. 統計学的に効果があれば、漢方や鍼灸でも科学的治療法である

漢方薬が効く理屈が宗教がかったものでも、臨床試験で薬効と安全性が確認できれば、科学的に有効な薬となる。原理や原料の制限は無い。アスピリンは著名な頭痛薬だが、実は厳密には原理が不明だった薬だ。成長ホルモンはかつて死体から精製していたし、女性ホルモンのエストロゲンは馬の尿から精製している。

5. ホメオパシーも科学的であることを主張しているが、それを立証する臨床試験を行っていはいない

日本ホメオパシー医学協会も、実験手続きの不備や追試での確認が取れていない、1988年のNatureの論文を元に科学的根拠を主張しているし、金澤批判が根拠としたサーベイ論文が妥当性を欠くとも主張しているようだ。

しかしホメオパシーは、科学的に薬効があると主張しているのに、薬効を確認する臨床試験を行っていない。どんな治療法も、理論や研究室の実験から効能が推測される段階では、科学的には有効だとは言えない。実際に患者を使った臨床試験で統計学的に効能が確認されないと、科学的に意味のある薬と言えないのだ。

6. 将来の「統合医療」の扱いに関連する

鳩山政権が統合医療の導入に前向きであったため、長妻厚生労働大臣も肯定的な発言を繰り返している統合医療の中に、ホメオパシーも入ってくる可能性があるのはご存知であろうか?

統合医療の範囲は明確ではなく、「統合医療に対する日本医師会の見解」を見る限りは、医療関係者も混乱しているように思える。しかし、統合医療を保険対象の医療行為として認めるには、何らかの根拠が必要で、そうでないと「ただの水」が健康保険の対象になることになる。

つまり、ホメオパシーのように科学的根拠を欠く治療法をどう扱うかは、今後の医療制度にも関わってくる問題だ。

7. もっとマスコミは批判を展開するべき

実のところ国内メディアでホメオパシーの糾弾も弁護もなく、上述の報道を大きく取り上げているに留まっている。海外メディアもワシントン・ポスト誌AFPは、「天皇の主治医がホメオパシーは似非医療だとこき下ろした。」と事実をたんたんと述べているに過ぎない。

もっとマスコミは「ホメオパシーは治験を行っていないので、非科学的な偽医療」と批判すべきだ。そして、他の統合医療も、もっと批判的に捉えるべきだ。そうでないと、科学的・非科学的な医療行為の区分けが曖昧になってしまい、統合医療の名の下に、似非医療が健康保険の対称になるかも知れない。

8. ホメオパシー支持者に言うべきこと

個人的体験などを元に、他人にホメオパシーを推奨する信者には、明確に「ホメオパシーに効果があるなら、治験を行って正規の医療行為に認定されるべき」だと言うべきだ。治験とは、薬事法上の承認を得るために行われる臨床試験である。

ドイツでは2004年に公的医療の対象外になり、英国では2010年に下院の委員会が科学的根拠が無く公的医療の対象外にするべきだと勧告しており望みは無いが、科学的であると言う事は、そういうプロセスを経る事である。

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