2010年8月18日水曜日

日本航空のリストラが進展中

このエントリーをはてなブックマークに追加
Pocket

日本航空のグループ会社ジャルエクスプレスで日本初の女性機長が誕生したのは記憶に新しいが(産経ニュース)、JALのリストラは粛々と進んでおり、多方面に影響を与えている。

以前、JALが破綻した理由をまとめたが、日本エアシステムとの合併後に、不採算路線や余剰人員をリストラできなかったのが破綻理由の一つだ。当然、2010年1月の会社更生法の適用後は、積極的にリストラを展開している。そのリストラの進展度と今後の課題をまとめてみた。

1. 粛々と進むJALのリストラ

まずは経営体制が稲盛和夫氏を中心とする形に改められ、債権者との交渉が進められた。その後、路線が大きく統廃合されることが公表され、余剰人員の削減や給与カットも進められている。旧型機材の整理も行われているようだ。ホテルや機内食、地上業務を行っている子会社も積極的に売却が試みられており、経営のスリム化が進んでいると言える。これらのリストラ策で完遂したと言える項目は一つも無いが、半年間でリストラは積極的に展開されていると言えるであろう。

【体制】2010年1月19日
会社更生法の適用を申請して即日受理される。企業再生支援機構が支援を発表。
【体制】2010年2月1日
大西賢・日本エアコミューター代表取締役社長が社長兼グループCOOに、稲盛和夫・京セラ株式会社代表取締役名誉会長が会長(執行役員)に就任。
【体制】2010年2月8日
デルタ航空(SkyTeam Alliance)との交渉を打ち切り、アメリカン航空(oneworld)との提携を維持を表明(asahi.com)。
【財務】2010年2月20日
上場廃止。
【機材】2010年3月31日
目だった広報活動も無く、旧型機のB767-200を退役(気まぐれ飛行機日記)。
【雇用】2010年4月12日
稲盛会長の、3年間で1万5700人を削減する人員削減計画を、さらに上積みする意向が報道される(読売新聞)。
【財務】2010年4月20日
日航の債権に対するCDS(債務リスク保証をする金融派生商品)清算価値の入札が行われ、20%と決定される。
【路線】2010年04月28日
国際線で15路線・週間86往復を運休し、国内線で30路線・1日最大58往復を運休する計画を公表(JALプレスリリース)。先行して報道されていた小牧空港の全路線廃止、中部国際空港発着分の路線半減等を含む。
【財務】2010年6月3日
保有株数に応じて、割引運賃が適用される株主優待継続を断念(産経ニュース)。
【財務】2010年6月25日
グループ3社の負債を一本化させて、金融機関などとの交渉の円滑化のために、傘下の日本航空インターナショナル・ジャルキャピタルを日本航空に吸収・統合させることを発表。
【雇用】2010年6月29日
60歳以上の定年退職者を契約社員として再雇用する制度を当面凍結する方針を固める(日本経済新聞)。
【財務】2010年7月14日
外食大手のロイヤルホールディングスと大手商社の双日がそれぞれ、日本航空の機内食子会社ティエフケーの買収を検討していると報道される。
【雇用】2010年7月27日
労働組合に、パイロットの平均年収は30%減の約1200万円、客室乗務員は25%減の約420万円、地上職は20%減の約500万円の賃金引下げを提示(Bloomberg)。また、実際の乗務時間にかかわらず一定額を支給していた手当などを廃止し、乗務時間に応じた賃金体系に変更も提示(毎日jp)
【財務】2010年8月3日
日航ジャンボ機墜落事故現場の「御巣鷹の尾根」の登山道整備事業で、負担金を支払えず、慰霊事業を行う財団法人「慰霊の園」の基金約5億5000万円のうち1200万円を取り崩していたことが報道される(読売新聞)。
【業務】2010年8月5日
関西空港内の国際線サクララウンジで、夜間にたこ焼きを無料提供するサービスを開始(読売新聞)。
【財務】2010年8月6日
JALホテルズを、約60億円でホテルオークラグループに売却(毎日jp)。
【設備】2010年8月9日
関西国際空港と中部国際空港で、航空機の誘導や機内清掃などの地上業務から撤退する方針だと報道される。
【雇用】2010年8月10日
操縦士130人の養成を途中で断念した。下地島での訓練飛行のスケジュールが全く無かった事から危ぶまれていた事だが、訓練全体を5~7年間停止する計画(産経ニュース)。
【路線】2010年8月14日
離島ジェット便から段階的に撤退する予定なのが報道される(南日本新聞エリアニュース)。

経費の削減も行われており、読売新聞が報じた経費削減計画では、2012年までに4,700億円程度の削減が行われる模様だ。

2. 意識改革は途上?

経営破綻で引責辞任した役員級の元幹部3人が6月中旬以降、相次いで関連会社の副社長に異動した人事で、稲盛和夫会長が怒りをあらわにする事があった(毎日jp)。通常の事業会社であれば、収益に貢献できなかった人間は冷遇される。

また、資金的な理由も考えられるが、関空のラウンジで出す「たこ焼き」以外にサービス面で目だった工夫も行われておらず、収益の拡大に積極性が見られない。稲盛会長が「商売人がいない」と形容する社風は、そうは簡単に変えられないようだ。

3. 事故の発生が頻発している

安全面では、リストラによって設備や社員の士気に問題が出て、大事故を招かないかが危惧される。JALでも、整備に使う資材の削減が進展しているようだ。そして、統計的に有意な件数ではないが、以下のように事故は多発しているように思える。大事故の前に、多数の小事故が観察されるというハインリッヒの法則から考えれば、最近の事故事例は、確率的な誤差で片付けるわけにはいかない。

【事故】2010年5月8日
鹿児島空港で、羽田発のJAL1863便(A300)が着陸した際、滑走路上で前輪の方向を操作できなくなり、滑走路が18分間閉鎖(読売新聞)。
【事故】2010年5月10日
JAL2016便(B777-300)が伊丹着陸時にテールスキッドを尻餅をし、滑走路に20m痕跡を残す。滑走路が約30分間閉鎖される(asahi.com)。
【事故】2010年5月25日
羽田空港のB滑走路で、高松発の日本航空1408便(A300)が着陸時に右側主脚の4つのタイヤのうち1つがパンク。タイヤの破片が滑走路に散乱し、滑走路が約35分間閉鎖される(読売新聞)。
【事故】2010年6月9日
伊丹発羽田行きのJAL116(B777-200)が油圧系統のトラブルのため、関西空港に緊急着陸(asahi.com)。
【事故】2010年8月15日
仙台発福岡行き3538便(MD90)が離陸直後、右エンジンにトラブルが発生し、仙台空港に着陸。後でエンジン火災が確認される(読売新聞)。

4. 今後の課題

リストラを進展させたJALの今後の課題は、金融機関からの融資を再開してもらう事だ。しかし、これは政府と金融機関側との駆け引きにかかっていて、JALが経営的に打てる手は僅かだ。

航空自由化で競争が厳しくなっており、どんなに合理化を進めても、航空会社は常に経営破綻のリスクは大きい。8月13日に、金融機関が「従来のビジネスモデルを踏襲する姿となっている」とJALへの融資再開に対して否定的な態度を取っていることが発覚した(TBS)が、世界の航空会社を見回しても画期的な手法で利益を上げている会社はほとんど無い。近年出てきた格安航空会社も経営は苦しく、積極的なコスト削減にも関わらず、常に倒産リスクにさらされている。破綻会社の客室乗務員がヌード・カレンダーを出したとか、顧客サービスの悪さがニュースになったなど、良い評判はほとんど聞かない。日本でも、スカイマークやエアドゥ等の新規航空会社は、設立後、すぐに経営に行き詰っている。つまり、航空会社は破綻しやすい。しかし、合理化以外に打つ手は無いのが航空業界なのだ。

日本航空も、ありふれた事業プランであっても、このままコスト削減を続けていける体制を作って行くしかないく、大きな破綻リスクはもう受け入れるしかない。金融機関も、安全な顧客にばかり融資をしているわけではないので、条件と政治的な駆け引きの問題が解決すれば、融資は再開されるであろう。

ところで、5月からやや事故が頻発しているのが気にかかる。航空会社にとっては安全運行が第一の使命で、JAL123便のような大事故を発生させたら、ブランド力の低下で長期的に甚大な経営上のマイナスを被る。分かり切った事だが、コスト削減と安全性の追求が今後もJALの経営課題だ。しかし、京セラ創設者の稲盛会長は、航空産業は門外漢だった人物だ。足元の安全意識の緩みを看過しないか、やや気がかりではある。

0 コメント:

コメントを投稿